Cross talk

vol.06

  • 十八代笹川
    オーナー
    笹川寛
  • ノットコーポレーション
    代表取締役CEO
    河内道生

第6回目の対談は、笹川寛さんです。
祖先を辿れば豊臣秀吉の時代にまで遡るという、由緒ある笹川家の 18代当主笹川寛さん。幼い頃から住んでいた実家をリノベーションし、カフェとして再生されました。今回は事業プロデュースを担当した河内と、建物の価値再生とそこから生まれる新たな未来の可能性について語り合っていただきました。

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Profile

十八代笹川オーナー 笹川寛

箕面市で約400年続く笹川家の18代当主。
土地活用としてアパートやビルなど複数の不動産を運用している。
2021年3月には勤めていた市役所を退職し、空き家となっていた実家をリノベーションしてカフェ「十八代笹川」をオープン。半年間で1万人近くの集客に成功した。

古民家をカフェにリモデル

河内

この建物を初めて見たときは外観、内観の迫力に驚きました。
築150年は経っているそうですね。

笹川

江戸時代の末期に建てられたと考えられています。
過去帳によると笹川家は約400年続く家で、代々この地に住んでいたようです。
私も結婚するまではこの家に住んでいましたし、5、6年前までは祖母もいましたが、やはり昔の家ですから住むには寒く、祖母や両親が新しい家に移り住んでからはしばらく空き家になっていました。

河内

お父様の代からアパート経営やビルの賃貸など他にいくつも不動産をお持ちですが、この建物を解体して収益物件にせず残していたのは、やはり思い入れのある建物だからですか?

笹川

そうですね。
特に父は残したいと言っていましたが、家は人が住まなければ朽ちていきますし、維持にはお金もかかります。
どうにか残す方法はないかとは考えていました。
ただ、ここでカフェをやろうという発想は当初は全くありませんでしたね。

河内

私に「カフェを開きたい」と相談をいただいた時も、この近くに店舗を作ろうと考えていましたね。

笹川

河内さんがリモデルやリノベーションのお仕事をされているのを知っていたので相談したんです。
ノットコーポレーションさんが作った「ガッツコーヒー」にもよくコーヒーを飲みに行っていましたよ。
内装が魅力的で、自分が経営するならこんなスタンドがいいと考えていたんです。

河内

一緒に物件探しにも行きましたね。
初期投資がかさむなあという話をしていた時に、たまたまご実家を見せていただきましたが、見た瞬間に興奮して、「かっこいい!ここでカフェをやればみんな喜んでくれますよ」と言ったことを覚えています。

笹川

私自身は毎日住んでいた場所ですから、人がここを見たときにどう思うかなんて想像もつきませんでした。
河内さんから「わざわざ訪れる価値がある」と言われた時も「本当にこんなところに来てくれるだろうか」と懐疑的でしたね。

河内

自分が持っているものの価値は自分では分かりにくいものですが、人からすれば宝物であることも多いものです。
重厚な外観や、庭から玄関までの情緒的なアプローチ、どっしりとした梁や土壁など、城下町に行かなければ見られないような景色がここにはあります。
4月には桜が咲き、ゆったりとした空気が流れる中で人々がコーヒーを飲む風景が目に浮かびました。

笹川

河内さんの話を聞くうちに、私も「確かにそうかもしれない」と考えるようになりました。
「古民家」というのは今の時代、一つのキーワードですし、都市近郊でロケーションも良いですから、この古い家屋でも、壁を取り払った広がりのある空間や、洗練されたコーヒーカウンターがあればきっと面白いだろうと。
周りにモデルケースがなかったため不安はありましたが、ここで自分のやりたかったことが実現できることに期待感が高まっていきました。

建物×地域が生み出すシナジー

笹川

オープンにあたって、コンセプトメイクやロゴデザイン、店舗のネーミングまで事業をトータルでプロデュースしてもらえたので、本当に助かりました。
地域へのビラ配布やインスタグラムでのマーケティングなども功を奏してオープン当日からかなりの数のお客様に来店いただけて、認知してもらうことの重要性を実感しましたね。

河内

僕たちもカフェ運営の経験はありましたが、失敗が許されないプロジェクトだったので、かなりのパワーを使って提案させていただきました。
内装に関しては、大きな梁や土壁など今の時代はなかなか見られない部材や、店内から庭園を眺められるロケーションなど、この空間の魅力を最大限に活かせたと思っています。

笹川

実際に、カフェがオープンして半年ほどで何千人というお客様に来ていただいたことを考えると、やはりこの建物には自分では気づいていなかった価値があったんだと再確認できました。

河内

その通りです。
私たちの仕事は、0から1を創ることではなく、既存の建物が持つポテンシャルを引き出すことですから。
例えば、私たちが経営しているカフェ「Knot Market Place」も、もともとは普通の町工場でしたが、少し手を加えることで人が集まる場所になりました。
今はその地域一帯を「N6(エヌロク)」という新しい情報発信基地に育てていこうとしているのですが、この場所にもそのポテンシャルがあると思います。

笹川

そうなんです。
先日は、来店されたお客様が SNS に箕面の勝尾寺と当カフェの写真を並べて「勝尾寺の帰りにカフェに寄りました」とアップされているのを見ました。
地域とのシナジーが生まれているんですよ。これは非常に新鮮でしたね。

河内

きっと、今後もこの建物が集客装置になりますよ。
この先さらに広がっていけば、地域の活性化にもつながるのではないでしょうか。
笹川さんはもともと市役所にお勤めだったので、行政の目線からの地域の姿も見えているのでしょうね。
Market Place」も、もともとは普通の町工場でしたが、少し手を加えることで人が集まる場所になりました。
今はその地域一帯を「N6(エヌロク)」という新しい情報発信基地に育てていこうとしているのですが、この場所にもそのポテンシャルがあると思います。

笹川

それはありますね。
ただ、行政とは違う民間ならではのアプローチができると感じています。
他の民間企業や個人の方ともコラボレーションしながら、一緒に面白いことがしたいですね。

建物再生から生まれる新たな未来

笹川

カフェの経営やスタッフとのやりとりは初めての経験で、不安も苦労もありますが、河内さんには経営者としての考え方や問題への対処方法なども気軽に相談できてありがたいです。

河内

経営者は誰もが苦労や不安を抱えているもので、それは私も同じです。
しかし、一歩踏み出したからこそ起きた問題ですから、クリアすることも含めて楽しんでいただきたいし、挑戦するからこそ新しい未来につながっていけるので、全力で応援したいと思っています。
笹川さんも、カフェを始めてからいろんな人とのコミュニティが広がっているのではないですか?

笹川

そうですね。
お客様や業者の方々などお店に来られるいろんな方との繋がりが生まれたことで、新たな展開も計画しています。
例えばクリエイターとのコラボレーションイベントを開催したり、ここをクリエイターが集まる場所として使ってもらったり。
食と異業種との協業にはまだ広がりの余地があると感じているので、さまざまな業界と積極的にコラボレーションしたいと考えています。

河内

「場」を持っているから、アイデアを外から持ち込むというやり方ができますね。
N6でも、スペースをギャラリーやスタジオとしてレンタルしています。
何年後かには誰もがあの地域を「N6」と呼ぶ未来を夢見て、いろんな仕掛けを考えているところです。

笹川

夢が広がりますね。
今、築古物件や古民家の空き家、空きビルはどんどん増え、社会問題になっています。
しかしこの建物のように一時は取り壊しすら選択肢にあった場所でも、再生することで魅力を感じて人が集まってくれる場所になりえます。
単なる「古民家」で終わるのではなく、ここを起点として当初は考えてもなかったような展開が生まれていくことが非常に面白いですね。

河内

古民家でもビルでもマンションでも、人が集まれば新たな未来が拓けます。
私たちの仕事はそれをサポートすること。
建物をどうリノベーションすれば人に響くか、どうすれば興味を持ってもらえるかを常に考え、今後も、内装や建築の力で人が集まる場づくりをサポートしていきたいと思います。

笹川

これからもいろいろとよろしくお願いします。

河内

こちらこそよろしくお願いします。(笑)

取材協力:十八代笹川(大阪府箕面市)

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