Cross talk

vol.04

  • 株式会社アピスファーマシー
    代表取締役CEO
    川越敏章
  • 株式会社ノットコーポレーション
    代表取締役CEO
    河内道生

第4 回目の対談は、株式会社アピスファーマシー代表取締役CEOの川越敏章さんです。
大きく変化する社会の中で多様化するニーズに対して提供する新しい価値や事業発展におけるコン セプトやアイデアの重要性についてなど、ノットコーポレーション代表河内と語り合っていただきました。

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Profile

株式会社アピスファーマシー 代表取締役CEO 川越敏章

地域に根ざしたかかりつけ薬局「アピス薬局」、「テトラ薬局」を78店舗経営。認知症カフェ「アピスパ ーク」を運営するなど、誠実で真心のこもった医療・福祉関連サービスを提供している。また、ネット通販やオリジナルのアピスブランド商品の開発も手がけ、国内外での販売も伸ばしている。

新しい価値を提供する、医療と介護の融合店舗

河内

2年に1回行われる薬価改定(国による医療用医薬品の公定価格の決定)により、調剤薬局市場は厳しくなっているとよく耳にします。業界的にも新しいビジネスモデルへの変革が問われていますね。

川越

そうですね。
新しいビジネスモデルを常に模索しています。厳しいのは確かですが、追い風だとも思っています。

河内

追い風ですか。調剤薬局というと、調剤室があり薬剤師さんがいて、処方せんをもっていくと薬を処方してくれる。そんなイメージでしょうか。

川越

この30年間薬局は増え続けて来ました。
価格やサービスで他店と差別化することが難しいからこそ、どこに店舗があるかということが重要視されていました。

河内

「自宅の近所にある」「病院の目の前にある」など、薬局は長らく立地で選ばれていたのですね。

川越

しかし最近では在宅医療や遠隔医療なども増え、立地の優位性が下がりつつあります。

河内

立地の優位性が問われにくくなると、他との差別化を図らないと生き残れなくなってくるということですね。

川越

経営効率の観点から店舗の内装や備品などのコストを削減すれば、どんどん画一的でつまらない店舗になってしまう。
でも、昔を思い返してみると、昭和時代の調剤薬局は患者さんの相談に乗ったり、薬を渡すだけでなく多くの方のライフステージに関わっていました。
最近は世の中のニーズとして、相談をする場所が求められていると感じています。

河内

アピスファーマシーさんとのプロジェクトで印象深いのは調剤薬局と介護用品の展示・販売を組み合わせた新しい業態、認知症カフェ(※1)の設計を依頼されたときでした。
認知症カフェは少しずつ全国に広がっていますが、一般の人が認知症について知る機会はまだ少ないし、認知症の患者さんとその家族は孤立しがちです。

川越

そもそも社内で「介護用品が展示してあり、それらを買ったり、相談できる場所があるといいね」と意見交換していたのです。
当社は長年、地域に根ざす薬局としてお客様とつながり、相談に応じ、地域情報を受発信するなど、コミュニケーションを大切にしてきました。そんな特性を新しい形で活かせないか。
そこで大阪・茨木市の自社ビル「アピスライフケアビル茨木中央」の2階に、くつろいだ空間でお茶を飲みながら介護や福祉のプロに相談できる空間の設置を決めました。
「医療と介護の融合店舗を目ざし、一般の方々に気軽に来ていただける店舗をつくりたい」と、ノットさんには概要だけ伝えてほぼ白紙 で依頼をしましたね。

空間設計はまず「コンセプト」ありき

河内

空間デザインは、どんなコンセプトにするかが重要なんです。
介護用品の展示場にわざわざ来てくれるお客様がいるのだろうか。まずは人が集まる、そこへ行くと情報が集まる店舗にして、「ここに介護用品もあるな」と気づいてもらう。
目的や目標から逆算していき、人が集まって楽しいパークというコンセプトを設定しました。

川越

「アピスパーク」という名前を河内さんにつけていただきました。
介護事業といえば「なごみ」とか「ひだまり」とか‥そんな発想をしてしまいます。
河内さんからパークというコンセプトが出た時には本当に感心しましたし、集いの場所にふさわしい、認知症カフェのコンセプトを体現している名前だと思いました。

河内

「オムツをおくのはやめませんか」と、介護用品の展示場所なのに介護用品がない空間を提案したら、それを受け入れてくださいましたね。

川越

そう、おしゃれな杖しかない(笑)。
2階をオープンスペースにしたことで、薬を買いにこられたお客様や、健康体操やヨガなどの講座を受けに来られた方が気軽に2階へ上がってくださいました。河内さんの提案通り、介護のためだけでなく、多くの方に気軽にお立ち寄り頂く機会が増えたのが、何よりも嬉しかったことです。

河内

コンペをした時に、ほとんどの会社が白を基調とした空間プランを提案してきたとおっしゃっていましたね。

川越

「薬局=白い」という思い込みなのでしょうかね。
そんな中で河内さんが持ってきたダイナミックな提案(笑)!これがいいと思いましたよ。
介護の相談をする時に緊張を強いる空間はよくない。
でもこれならリラックスできる、と思いました。

河内

嬉しいですね。ありがとうございます(笑)。
まず、デザインの力で何をどのように解決できるかを考えます。「行きたくなる薬局」とは何か、と考えた時に、安心、安全、快適、すべてのバランスがとれている場所に人は行きたくなるのではないかと思いつきました。
レストランでも同じことで、せっかくおしゃれな内装でおいしい料理が出ても、スタッフがガサツだったら、そこには行きたくない。
空間を構成する要素のトータルバランスが大切なのです。

川越

部屋の真ん中に樹木を配置したことも驚きました。ここに来てくださる人を癒すために置きましたが、七夕には短冊や、クリスマスにはイルミネーションが施されたりしています。

河内

素敵な使い方ですね。来られる人が喜んで下さるのが一番ですから。
次はサファリパーク、バードパークなどテーマを決めた楽しい空間にしても面白いのではないでしょうか。

業界の常識にとらわれることなく、積極的に新しい価値を生み出す

川越

薬局として地域で主体的に新しい事業を展開していく、と心に決めたのは、ノットさんがつくってくださったこのカフェのおかげです。
大変好評で、地域の薬局の方や高齢者のために地域活動をしていらっしゃる方、自治体の担当者さんも見学にこられることがあります。

河内

現在、東京の表参道に土地を取得して、新しい事業を計画されているそうですね。

川越

表参道では健康な方に向けて、健康の維持増進について情報発信をしたいと考えています。
当社の経営理念は「あらゆる人の健康でより快適、安全、安心な生活の実現」です。
健康な方にもアピスの思いを伝えたいと思っています。

河内

これまでの医療は、病気を治すことに大きな役割があったけれど、これからは元気であることをサポートする医療へ、治す医療から支える医療へと大きな流れがある中で、生活を豊かにするために貢献する薬局でありたい、と思われたわけですね。

川越

まちのかかりつけ薬局として培ったコミュニケーション力を、新しい形で再び発揮しようと思います。

河内

これからは高齢者が増えるなど、人口動態も大きく変わってきます。

川越

薬局は重要な社会インフラだという自負があり、無責任な撤退はできません。
その意味でもターゲットを広げ、処方せん調剤以外のビジネスを考えるしかありません。銀行がお金を扱わず、資産形成の相談業務だけの営業所をつくったように、薬を扱わず、相談や交流の場である薬局だって生まれておかしくないと思っています。
もっと貪欲にビジネスチャンスをつかまなければなりませんね。

河内

同感です。ビジネスチャンスを掘りおこすにあたっては、ロジカルなマーケティングより、「楽しそう」、「面白そう」から始めるといいと思います。
そしていかにアイデアを出し合うか。面白そうなことには商機があります。他社と同じことはせずに、失敗してもいいから積極的に打っていく。
私自身、業界外の人とよくつきあい、いろいろな情報をもらいながら新しいアイデアを出すようにしています。

川越

客観的データに基づいて何かを決めると、皆、同じ結果を導いてしまいますからね。
面白さから発想することが大切ですね。

河内

弊社が提供しているサービスは設計・デザイン・施工ですが、提供しているサービスの価値を「クライアントが儲かる仕組みの提案」ととらえています。

川越

ただつくるだけではない、ということですね。

河内

そうです。業界の常識にとらわれることなく、積極的に新しい価値を生み出す努力をしていきたいと考えています。
これからも一緒に新しいことにチャレンジしていきましょう。

認知症カフェ

認知症カフェ(※1)

認知症の人やその家族、医療や介護の専門職、地域の人などが、地域の身近な場所で気軽に集い、情報交 換や相談、地域の人との交流ができる場所。
平成24 年9 月に厚生労働省が策定した「認知症施策5か年計画(オレンジプラン)」のもと、認知症高齢者が住み慣れた地域でいつまでも自分らしく暮らしていけ る環境づくりの一環として、全国で増えてきている。

取材協力:BUON GRANDE ARIA(大阪市中央区北浜)

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